式辞
今年の冬は、例年に比べて厳しい寒さで、特に年末の大雪をはじめとして雪のとても多い年となりました。一方で、数日前から少しずつ気温も上がって雪解けも早くなり、春の訪れもそう遠くないと感じられるようになりました。そのような中、本日、令和3年度卒業式を無事挙行できますことを、心から嬉しく思います。
本来であれば、在校生も含めた倉吉西高全員と、保護者の皆様、また、多くのご来賓の方々とともに、卒業生をお送りしたかったところですが、新型コロナウイルスの感染状況により、このような形での卒業式としましたこと,申し訳なく思っております。
ただいま、113名に卒業証書を授与いたしました。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
保護者の皆様、お子様のご卒業、まことにおめでとうございます。いろいろと大変な3年間であったがゆえに、万感の思いが胸にこみ上げておられるものと、お察しいたします。この3年間、本校の教育にご理解とご協力をいただきましたこと、この場をお借りして、教職員を代表し心から厚くお礼を申し上げます。
さて、今から3年前、不安と期待を抱きながら、この会場での入学式に臨み、倉吉西高での高校生活が始まりました。ただ、この3年間は、その多くが新型コロナウイルス感染症への対応に追われ続けた3年間であったと思います。
ステージ1では、まだ、多くのことが以前と同様に実施できた頃でした。1月のスキー・スノーボード研修では、雪不足の中ではありましたが、2泊3日の研修を何とか実施できました。ただ、この研修が、高校生活での宿泊を伴う学校行事としては、最後のものになるとは、その時は誰も思ってもみなかったことだと思います。その約1ヶ月後の2月27日夕刻、当時の安倍総理大臣による、突然の「全国一斉休校」要請により、日本国内、そしてこの倉吉西高にも衝撃が走りました。学校は臨時休業となり、授業も部活動もできなくなって、学校生活や家庭生活も、一気に変わっていきました。
ステージ2になって、鳥取県内でも初めて感染が確認され、その状況は悪化していきました。部活動では県総体や県高総文祭も中止、インターハイも史上初めて中止となりました。昨年度の卒業生の多くは、最後の大会に参加することもできずに、悔しい思いや、やりきれない思いを抱きつつ、部活動を引退することになってしまいました。臨時休業に伴い対面での授業もできず、西高祭は期間や規模をかなり縮小しての実施、楽しみにしていた「フィールドワーク・イン・関西」も中止、多くのことが「中止」となった一年間でした。
ステージ3になると、新型コロナウイルス「変異株」が大きな影響を与えるようになり、春から夏にかけては「デルタ株」、そしてこの1月からは「オミクロン株」が猛威を振るい続け、今に至っています。5月末には県総体直前の時期に県内すべての高校で10日間部活動禁止となり、8月、そして1月末以降は「分割授業」の形式での授業となるなど、「元の学校生活」には未だ戻れていません。一方、その対応は少しずつ変化していきました。昨年はいろんなことが「中止」とされていたことが、今年度は、「どういうやり方であればできるのか」「どんな工夫ができるのか」との対応に変わっていきました。県総体も「延期」とはなりましたが何とか実施され、インターハイも2年ぶりに開催されました。本校での最大の行事である「西高祭」は、当初の予定より延期しての開催に向け、実行委員を中心に、生徒たち自らがコロナ対策を工夫して、準備してきました。更に西高祭第1日朝から、避難指示が出されるほどの大雨によって、学校は臨時休業、西高祭もさらに5日間延期としました。ただ、その時も実行委員を初めとする多くの生徒たちが、休みの日や早朝から夕方遅くまで、西高祭が始められるよう準備してくれました。そして、感染症対策に加えて、熱中症の対策も講じながら、本当に苦労して作り上げた第54回西高祭は無事開催でき、西高上空に鮮やかに花開いた花火とともに、その幕を閉じました。
新型コロナウイルス・大雨・大雪など、多くのことが皆さんの前に立ちはだかり、「向かい風」が吹き荒れた3年間であったのかもしれません。今年の正月に行われた箱根駅伝で、多くの記録を更新して完全優勝を成し遂げた、青山学院大学駅伝部の原晋監督は、「誰もが向かい風の中で生きていくのは嫌だと思います。しかし、様々な風圧の中から感じ取れることが多々あります。そんな風圧に負けない『レジリエンス』を身に付けましょう。」と語っておられます。「レジリエンス」とは、困難に直面している状況に対して、上手く適応していく能力を意味する言葉です。また、今年度開催された、東京オリンピック・パラリンピックや、北京オリンピックのアスリートの皆さんは、新型コロナを初めとする様々な制約や逆境の中、成功するだけでなく「挑戦すること」の素晴らしさを教えてくれました。卒業生の皆さんが、これから始まる人生の新しいステージにおいて、しっかりとした「志」を持ち、向かい風に苦労したり困難に直面したとしても、常に顔を上げて「挑戦」し続けて欲しいと思います。
ここで、卒業生の皆さんに一つの歌を紹介し送りたいと思います。それは「Story」という、私の好きな歌の一つで、「AI(あい)」さんという女性シンガー自らが作詞された歌です。優しく美しいピアノの旋律で始まるこの歌の冒頭、「限られた時の中で、どれだけのことが出来るのだろう。」と、温かく包み込んでくれるような歌声で、AIさんは歌い始めます。そして、「どんなに強がっても、ため息くらいする時もある。孤独じゃ重い扉も、共に立ち上がればまた動き始める。」と。私たちの現実に立ちはだかる困難という重い扉、その扉を一人で開けることは簡単なことではないけれど、大切な人と共に立ち上がればどんなに重い扉でも開くことができ、その先へ進むことができるとの想いを語ります。さらに、「自分だけのSTORY、作りながら生きてくの。だからずっと、ずっと、あきらめないで。」そしてこの歌は、次のように締めくくられます。「一人じゃないから、私が君を守るから。あなたの笑う顔が見たいと思うから。時がなだめてく、痛みと共に流れてく、日の光がやさしく照らしてくれる。」この歌の中でAIさんは、ありふれた日常を当たり前と思わず、今日という日を大切にすることや、悲しいこと・苦しいことがあっても、そばにいてくれる人の存在を当たり前と思わず大切にしていこう、と語っています。卒業生の皆さんのこれからの「Story」において、「当たり前の日常」や「誰かがいてくれること」を大切にし、たとえ困難に直面したときでも、必ずそれを乗り越えて強くなって欲しいと思います。
結びに、保護者の皆様、お子様の本校での3年間は、様々な困難をひとつひとつ乗り越えていき、そのたびに心身共にたくましく、成長されました。本日、高等学校を卒業されますが、これからも暖かく見守り、支えていただきますようお願いいたします。
113名の卒業生の皆さんひとり一人が、力強い旅立ちとともに次のステージに向かい、これからも「挑戦」し続けるしっかりとした「Story」となることを祈念いたしまして、式辞といたします。
令和4年3月1日
鳥取県立倉吉西高等学校 校長 山口 宏志