鳥取県立まなびの森学園 令和6年度入学式 式辞
蒼い天は高く澄み渡り、大自然も今日の出発を祝福しているようです。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。皆さんが学ぶこの「まなびの森学園」を、先生たちは親しみをこめて「まな森」とすでに愛称で呼んでいます。ようこそ、まな森へ!
今、入学許可書を一人ひとりに渡し、正式に10名の新入生を迎えました。私も胸にこみあげてくるものがあります。皆さんの気持ちはいかがですか。待ち遠しかったでしょうか。もちろん不安もあると思いますし、わくわくする期待感もあると思います。
さっきまでの開校式を終え、入学式にはまなびの森学園と関係が近い方や、心を込めて校章、校歌を作ってくださった方々も遠くからお越しくださり、皆さんの出発を祝ってくださっています。
そして、校名を考えてくださった方は、今日ご出席になれませんでしたが、思いを込めて「まなびの森学園」と名付けてくださいました。「森」には小さな微生物、さまざまな動物、植物、数えきれない程の多様な生命が息づいています。そして、森はその多様な一つひとつの大切な命を温かく包み込んでいます。まな森は、森のように温かく、皆さんを包み込み安らぐ場でありたいと思っています。
今日を迎える前、「こんなに生徒を待ちわびたことはない」、そんな声がまな森の先生からありました。その言葉は、私がちょうど2年前に夜間中学をつくる仕事を任され、それ以来ずっと、心の中で感じてきた気持ちと全く同じでした。
皆さんはこの学校を自分で選びました。一方で私たち、学校の職員は、皆さんを
ずっと待って、迎え入れたいと願っていました。そう、皆さんは待ち望まれてこの
学校に入学された大切な存在です。
入学までに、体験会や相談に来られた時の、皆さんの緊張した姿、少し照れくさそうな笑顔を思い出します。帰りには学校の玄関で皆さんの後ろ姿を見送りながら、まな森で学んでほしいなと願っていました。
そして今日、鳥取県初の県立夜間中学の最初の生徒として、まだ誰も経験していない学校で、皆さん同士は出会い、学びがスタートします。私が皆さんのことを知っているのは、まだ少しだけですが、まな森には素敵な仲間が集まっています。素晴らしい特技があったり、苦しいことも乗り越えてこられた経験があったり、尊敬できる仲間が集っています。
そこで皆さんに、お願いがあります。それぞれが歩んできた経験も、得意なことや苦手なことも、気持ちも一人ひとり違います。みんな違ってそれでいい、誰もが安心して「いろとりどりに、ともに自分らしく学べるよう」、自分も大切にする、ほかの人も大切にする、お互いを大切にしあってほしいというお願いです。
挨拶のはじめには今日の天気を例えに出しました。私は旅がとても好きで、実は苦手な飛行機にも乗って旅をします。飛行機が動きはじめ、地上を離れ、途中、先が見えない雲の中では大きな揺れがあり、この上なく不安になります。でも、それを抜けたら、静かで蒼くどこまでも広がる空を見ることができます。まるで幸せな未来が見えるようです。
「雲外蒼天(うんがいそうてん)」、新しい生活への出発にあたり、この四字熟語を皆さんに送りたいと思います。
雲の外にはとても素晴らしい青空が広がっている、その意味は、辛く苦しいことを乗り越えた先には、必ず良いことがあるというものです。動かなければ何も始まらなかった、動いた結果として今、皆さんはここに居ます。この一歩は、やがて大きな変化をもたらしてくれるでしょう。よろこびをともに分かち合い、辛さもともに乗り越えていける、まな森生徒は、そんな仲間であってほしいと願っています。
結びになりますが、新入生のご家族の皆様には、不安も感じつつも、この日を待ちわびておられたと思います。まなびの森学園教職員は、生徒ご本人、そしてご家族とともに歩み、安心して学んでいただけるよう努力してまいりますので、よろしくお願いいたします。
県教育委員会、地域の自治会長様や設置準備懇談会委員様はじめ、開校前から準備に関わってくださりご臨席いただいた皆様方には、引き続きのお力添えをよろしくお願い申し上げます。
そして、新入生の皆さん、いろとりどりの皆さんが出会ったことで、人と人とが繋がり、ほかの仲間の姿から、必ず新たな勇気や知恵、力を得られるはずです。さあこれから、新しい未来への一歩をともに踏み出しましょう。
以上で 式辞といたします。
令和6年4月12日
鳥取県立まなびの森学園 校長 山口京子
鳥取県立まなびの森学園 開校式式辞
桜舞い、蒼天は高く、まばゆいほどの日差しがそそがれるよき日に、晴れて鳥取県立まなびの森学園の開校を迎えることができました。
先ほど、鳥取県教育委員会足羽教育長より開校宣言、そして校旗を授与いただき、出発の一歩を踏み出すことができ、大きな喜びと感謝の念に堪えません。
こうして、無事、今日の節目を迎えることができましたのは、本日ご臨席賜っております、平井伸治鳥取県知事様、浜崎晋一鳥取県議会議長様、県・市町村教育委員会や地域自治会の皆様、設置準備等に係る懇談会委員の皆様をはじめ、数え切れない方々のおかげです。高段からではございますが、この場をお借りし、心よりお礼申し上げます。
今、この日を迎え、人と人とのつながりの大切さを実感するとともに、いただいてまいりました大きな力に感謝をしております。
夜間中学を設置する運びとなり、本格的に開校準備に向かったのは2年前。鳥取県で初めての県立夜間中学をどう作っていくのか、右往左往しながら手探りで準備を進めてまいりました。
そのような中で、設置準備懇談会委員の皆様からは、幅広い視点から御示唆をいただきました。
本校近隣自治会の皆様は、準備開始以来、いち早く応援団となってくださいました。
県や市町村教育委員会の御協力のもと、学校説明会キャラバンを全県で展開し、中学校や県立学校からは各校の財産とも言うべき知見や情報などを惜しみなく与えていただきました。県内各地、行く先々では、夜間中学ができる意義、入学される方の学ぶ権利や学びを保障することの大切さを認識してくださり、理解や応援の声をいただきました。
そして、校章をデザインしてくださった井口様、校歌を作ってくださった杏沙子様からは、生徒を思い描きながら、心のこもった最高の贈り物をいただきました。県内外を問わずの数々のお力添えは、言葉に尽くせません。
そして、先程足羽教育長からもございましたが、開校の準備にあたり、一番最初に大きく発信しようと考えたのは、お手元にございます、まなびの森学園コンセプト「目指す学校の姿」でした。
何とか学びを求めておられる方につながりたい、一人ひとりを大切にした学びを考え、安心して学べる学校を目指していることを伝えたい、その思いで、目指す学校の姿を「いろとりどりに、ともに自分らしく学ぶ」。そして、「学ぶよろこび」「つながるよろこび」「社会の中で生きるよろこび」を実現させたいというメッセージを刻みました。
学校の姿を思い描いていただいた時に、「自分のカラー、自分らしさを出していいんだ、自分が大切にされるんだ」、そういったことを感じていただいて、安心して のびやかに学んでください、と伝えたかったものです。
このコンセプトは、生徒が主人公であり「私がこうなるんだ、できるんだ」という姿であり、4月1日、本校教育目標として掲げさせていただきました。
このあと、入学式がございますが、新入生は世代や経験も、まさにいろとりどりであり、一人ひとりの歩んできた歴史があります。そういった皆さんが大切な人生の中で出会い、今、入学の時を迎えようとしています。
私たちが、学びたい願いを持っておられるご本人やご家族とつながることは、簡単ではありませんでした。しかし、それ以上に、学びを求めておられた方にとって、学ぶ機会、学びの場を得ることはもっと容易ではなかったと感じております。どれだけその願いを叶えたかったか。様々な思いや葛藤、不安を感じながらも、時間を経て、学ぶチャンスを掴んだ喜びの大きさや、本校への期待も感じました。
今、こうして目の前には、新入生の姿、見守るご家族の姿もあります。それぞれが学びたい願いを持って、自分の何かを変えたいと、勇気をもって来られました。敬意をもって、一人ひとりのその強い思いに応えていくことが、本校教職員の使命だと痛感しております。
本校は緒に就いたばかりですが、新しい学びの形を生徒のみなさんとともに築いてまいりたいと思います。
そして、学び合う者同士が互いの思いや考えにふれ、自分も他者も大切にしながら、のびやかに学べる学校でありたいと思います。
結びに、いろとりどりの生徒を包み込み、心安らぐ居心地の良いまなびの森となるよう、私たち教職員は、いつも生徒とともにあり、ともに成長し、心と力を合わせて邁進することをお誓い申し上げます。御臨席の皆様方には、引き続きのお力添えを賜りますよう、お願い申し上げ、式辞とさせていただきます。
令和6年4月12日
鳥取県立まなびの森学園 校長 山口京子
校長あいさつ
まなびの森学園は、さまざまな理由で十分な教育を受けられないまま中学校を卒業した方や、小学校や中学校を卒業していない方の学びたい願いにこたえ、夜の時間帯に授業をおこなう中学校です。年齢や国籍、これまでの経験もいろとりどりの方々が学ぶ場として、一人ひとりに合った学習の積み重ねとともに、人や社会とつながることも大切にした教育をおこないます。
また、県内各地域で開催している学校説明会・体験授業会では、行く先々で、夜間中学ができる意義や学びの保障の重要性を認識され、たくさんの応援もいただいています。
このように、多くの方々のご理解・ご協力や知恵をいただきながら、令和6年4月の開校に向けて準備を進めています。
そして今、私たちまなびの森学園教職員にとって、何よりも心が躍るのは、本校で学びたいという方々との「出会い」です。教職員全員が笑顔になり心もあたたかくなります。
10月27日、11月17日に本校でおこなった体験授業会では、私も参加くださった方と「わかった」「できた」をともに味わうことができ、うれしさでいっぱいでした。
出会うみなさんからは、むしろ私たちの方が新しい未来に向かう勇気とよろこびをいただいています。試行錯誤しながらではありますが、生徒のみなさんが「まなびの森学園に入学してよかった」と心から実感していただけるよう、鳥取県ならではの新しい夜間中学の学びを全力で準備してまいりたいと思います。
未来の生徒のみなさん、まなびの森学園でお会いできる日を心から楽しみにしています。
令和5年11月 鳥取県立まなびの森学園校長 山口京子